アルピナの拠点の移り変わり
今回はアルゴイの中心部にあるアルピナ本社が時代とともにどのように移り変わってきたのかをご紹介します。
ブルカルト・ボーフェンジーペンは幼い頃からの車好きが昂じて、1962年からカウフボイレン・ノイガブロンツにあった父親のアルピナ工場でBMW 1500の性能を向上させるツイン・キャブレター・システムの開発に着手しました。父親の工場は、主として世界中で販売されていた高品質のタイプライターを製造する事務機器工場でした。
この製品はアルピナ・システムと呼ばれ、自動車関係のメディアからはもちろん、BMWからも高い評価を受けました。そして1964年6月8日付けでドイツ国内外のBMWディーラー全社に送られたサービス・インフォメーションは、同製品に対して最終的な承認を与えるものとなりました。BMWは技術的な懸念を示すことなく、アルピナ製のコンポーネントを使ってチューニングしたBMW車についても保証を引き受けることにしたのです。これが、アルピナ・ブランドの永続的な成功と、BMWとの緊密かつ友好的な協力関係の始まりとなりました。
1964年末にルドルフ・ボーフェンジーペンはアルピナ工場を去り、それを引き継いだ新オーナーはブルカルト・ボーフェンジーペンの自動車分野での開発に関心を示すことはありませんでした。そこで1965年1月1日に、ブルカルト・ボーフェンジーペンは8人の従業員とともに Bovensiepen KGを立ち上げ、廃棄されるはずだった既存の株式を信用で購入し、ブランド名も「ALPINA」とすることにしました。
この設立まもない会社は1970年に、ブッフローエにあった、かつてオムツを製造していたプラスティコ社の工場に移転しました。ただ、建物の状態はあまり良くなく、当初からすでに規模が十分とは言えませんでした。製品ラインナップが拡充し、一連のエンジンや性能を向上させる他の自動車パーツも扱うことになったほか、ツーリングカー・レースにも参加するようになったことで、工房、性能テスト・ベンチ、さらに責任者向けの適当なオフィスを収容する新しい建物が必要になり、ブルカルト・ボーフェンジーペンは12月初めに従業員たちに対し、これからはさらに会社の景気がよくなること、何よりも工場内のすべてを完璧に整えなくてはならないことを説明しました。そして、ブルカルト・ボーフェンジーペン一族が会社の敷地内にある家を前のオーナーから引き継ぎ、1973年に建物を拡張し、倉庫も建て、ここでプラスチック製のパーツを製造できるようにしました。
1976年に、初めて完全な電子制御式のイグニッション・システムを備えた、当時としては驚異的な300PSを発生する革新的なターボ・エンジンを開発したことで、テスト・ベンチを拡張して大きな2つの新しいテスト・セルを追加せざるを得なくなりました。さらに1980年には、BMW Motorsport GmbHの新しいマネージング・ディレクターとなったヘニング・ショイ氏とパウル・ロシェ氏から、F1用の1.5リッターのターボ・エンジンを完全に秘密裏に開発・試験するために、テスト・ベイの提供をアルピナに依頼されました。
売上が増えたことで、1982年には生産工場を改装し、完全に新しいプラスチック部門も加わりました。
アルピナが自動車メーカーとして正式に事業登録された1983年には、最新モデルの生産とクラシック・モデルのスペア・パーツにも対応できるよう、場所をとるパーツ(リム、タイヤ、空力パーツ、シャーシなど)をすべて保管できる大型の部品倉庫が必要になりました。
さらに同年にこの建物の隣に、短期間で目覚ましい成長を遂げたワイン販売のために、空調を完備した大きなホールを建設しました。ここで、名高い産地の約50万本の高級ワインを最適に保管して熟成できるようになりました。
自動車業界で排気ガスの浄化が問題となった時には、再びアルピナは先駆的な役割を果たすことになりました。アルピナは1985年に、一般に使用されていたセラミック触媒に代えて、Emitec社製の革新的で非常に効率的な金属触媒を全モデルに装備した最初のメーカーとなったのです。この開発のために、ワイン・ホールの隣に、排気系統用のダイナモメーターを設置しました。
ワイン分野の成功が続いたことで、1986年にはさらに50万本超のボトルを最適に保管できる2つ目のホールを建設しました。アルピナはドイツ屈指のワイン・ディーラーに数えられるようになり、1,000店を超える高級レストランやホテル、数多くの個人のお客様にワインを提供しています。
従業員数が120人に増え、生産台数も増えてさらに広いスペースが必要になったことから、1989年から90年にかけて、管理・保管・生産工場、そして新しいレザー・ワークショップのために新しい大きなビルを建設しました。エンジン構造と特殊パーツを製造するための拡張も1991年に完了しました。
2000年には旧プラスティコ社の建物の最後の部分を取り壊して、ショールーム、さらにオフィスも追加し、新しい発送部門、人気が高まっているレザー・パーツ用の高性能なカッターを備えた、レザーの在庫を保管するスペースなど、会社の顔となる新しいビルが建てられました。
2003年には、金属加工工場とマシン部門が追加されてスペースが拡大し、購買オフィスと拡充した認証部門が1階に入ることになりました。
2008年に、同社史上最も大規模な拡張が行われ、設計・試験・開発センターが建設されました。こうした最先端の技術(5台のエンジン・テスト・ベンチ、排気ガス分析機能を備えた排気系統向けのローラー・ダイナモメーターのほか、排気ガス・燃料消費量・エンジン性能の測定とECE、EU、EPA、CARB、日本の排気ガス試験/走行サイクルの試験について認定された公認TÜVテスト・ラボ)により、開発時間を短縮し、ますます厳しくなる環境基準にも対応できるようになりました。さらに上の階では、従業員が働きやすい職場でエンジニアとデザイナーが開発に取り組んでいます。
旧型のテスト・ベンチは役目を終え、新しいテスト・ベンチではBMW ALPINA B6 GT3のエンジンも性能をフルにテストできるようになりました。2009年にこのモデルによってアルピナは20年間離れていたモータースポーツに復帰し、2011年には熾烈な争いが繰り広げられるADAC GTマスターズのドライバーズ選手権で優勝し、栄冠を手にすることになりました。レーシング・マシンの製造とメンテナンスのために、会社の近くにある社外の工場が借り上げられ、レース・チームの活動が終わると量産モデルの生産にさらに対応するための場所として活用されています。
2020年以降は、シャーシとステアリングの開発サービスの拠点として、社外の別のビルがボーフェンジーペン一族によって建設されました。ここには、5台の昇降プラットフォームと1台の測定プラットフォームを備えたテスト工場や、チューニング・コンポーネントの保管エリア、さらに16人のアプリケーション・エンジニアと6人のメカニックが働く工房が入っています。
こうしたすべての施設で、現在は約300人の従業員が働いています。将来に向けて最高水準に対応できるよう、ブッフローエ拠点の近くでさらなる物理的対策も計画されています。
*写真は日本仕様とは一部異なります。また、日本には導入していないアクセサリーも含まれております。
*日本仕様においては、受注いただいたタイミングなど諸条件によって、一部お応えできない場合がございます。
*本記事は独アルピナ社(ALPINA Burkard Bovensiepen GmbH + Co. KG )発行のニュースレターの翻訳であり、日本市場と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。